もうすぐお盆。実家に帰る予定を立てている方も多い時期だと思います。
先日、私の勤める薬局に、こんなご相談がありました。
一人暮らしをしているお母様のもとへ帰省した娘さんが、家の片付けが行き届いていないことに気づき、部屋の中を見てみると、段ボール箱2箱分もの薬が出てきた、というのです。まだ体もしっかり動けて、頭も普段通りだと思っていたので、娘さんはかなり驚かれたそうです。「薬の管理ができていないようなので、どうしたらいいか」と、薬局に直接連絡をくださいました。
薬局の窓口に立っていると、お盆やお正月の帰省シーズンが明けた直後、こうした「久しぶりに実家に帰って気づいた」というご相談が増えます。同居していない分、少しずつ進んでいた変化に、離れているからこそハッと気づく、ということが実際にあるのです。
今日は、このご相談への対応も踏まえながら、この夏の帰省で「ついでに」チェックしておきたいポイントと、気になる点が見つかったときにどうすればいいかをまとめてみます。
「久しぶりに会うから気づく」変化がある
同居していると、実はゆっくりとした変化には気づきにくいものです。逆に、数ヶ月ぶりに会う家族だからこそ「あれ、前と違う」と引っかかることがあります。
これまで窓口で聞いてきた「帰省がきっかけで気づいたこと」には、こんな声がありました(個人が特定されないよう、内容は一般化しています)。
- 台所やリビングに、飲み忘れた薬のシートがそのまま置きっぱなしになっていた
- 同じ種類の薬が、開封されないまま何箱も溜まっていた
- 「体調はどう?」と聞くと「変わらない」と答えるが、実際は歩き方がゆっくりになっていた
- 冷蔵庫の中に、消費期限切れの食品が目立つようになっていた
- 会話の中で、同じ話を数分おきに繰り返すようになっていた
どれも、本人からSOSが出るものではありません。「困っている」という自覚がないまま、少しずつ生活が回らなくなっていくケースは、実はめずらしくないのです。
帰省中にさりげなく見ておきたい5つのポイント
「介護のチェックリスト」というと身構えてしまいますが、そんなに大げさなものではありません。帰省中の何気ない時間に、さりげなく目を向けてみるだけで十分です。
① お薬の「飲み残し」がないか
薬箱や引き出しに、薬のシートがまとまって残っていないか確認してみてください。
冒頭でご紹介したケースでは、段ボール箱2箱分もの薬が見つかりました。「そんなに極端な例、うちには関係ない」と思われるかもしれませんが、実際に窓口で話を聞いていると、決して珍しいケースではありません。
飲み残しが積み重なる理由はさまざまです。「飲むタイミングを忘れる」「薬の種類が多すぎて管理しきれない」「体調が良いと感じて自己判断でやめている」など。どれであっても、本人だけでは気づきにくく、また「なんとなく気まずくて言い出せない」まま溜まっていくことも多いようです。
② お薬手帳が最新の状態になっているか
複数の病院にかかっている場合、お薬手帳が1冊にまとまっていない、あるいは何年も前で止まっている、ということもよくあります。
もし手帳が見当たらない、更新されていない様子であれば、「今度一緒に薬局に行こうか」と声をかけるだけでも、その後の管理がぐっとスムーズになります。
③ 会話や物忘れの様子
深刻な認知機能の話をしたいわけではありません。ただ、「さっきも同じことを聞かれたな」「置き忘れが増えたな」という些細な違和感は、記憶しておく価値があります。
一度だけで判断する必要はなく、「次に帰省したときはどうか」を比べる材料として、頭の片隅に置いておくくらいで十分です。
④ 冷蔵庫や台所の様子
薬の話からは少し離れますが、生活全体の変化を知る手がかりとして、冷蔵庫の中身や台所の使われ方も参考になります。賞味期限切れのものが目立つ、同じ食材ばかり買い置きされている、といった様子は、日々の買い物や調理が少し負担になってきているサインかもしれません。
⑤ 「困っていることはない?」と、あえて聞いてみる
一番シンプルで、一番大事なことです。多くの場合、親世代は「子どもに心配をかけたくない」という気持ちから、多少の不調があっても「大丈夫」と答えます。
「最近どう?」ではなく、「薬、ちゃんと飲めてる?」「困ってることない?」というように、少し具体的に聞いてみると、案外ぽろっと本音が出てくることがあります。
気になる点があったら、まず「かかりつけ薬局」へ
もし気になる点が見つかっても、いきなり病院を予約する必要はありません。まずは、実家のかかりつけ薬局に相談してみるのがおすすめです。実は、本人が来局しなくても、家族が代わりに窓口で相談できることも多いので、「本人を説得してから」と身構えなくても大丈夫です。
実際に薬局ではこんな対応をします
先ほどの段ボール2箱分のケースでは、その後こんな流れで対応しました。
まず、薬剤師が実際にご自宅へ訪問し(在宅患者訪問薬剤管理指導という制度を利用しました)、本人からじっくり話を聞き取りました。話してみると、ご本人の理解力自体はしっかりしている印象で、認知症によるものではなさそうだ、ということが分かりました。ただ、これまで薬をシートのまま(1錠ずつ切り離す「ヒート」の状態)で渡していたため、種類が増えるにつれて管理が追いつかなくなっていた、というのが実情でした。
そこで、次のような対応を行いました。
- 一包化:朝・昼・晩など、飲むタイミングごとに薬を1袋にまとめる方法に変更。シートのまま何種類も管理する必要がなくなりました
- 残薬の再利用:使用期限に問題がなさそうな薬については、処方医と相談のうえ、そのまま治療に活用することに(廃棄せず、次の処方日数を調整する形です)
- 使用期限切れ・状態が悪いものは廃棄
- お薬カレンダーの導入:曜日・時間ごとにポケットが分かれたカレンダーに薬をセットし、「飲んだかどうか」が一目でわかるように
これで、ご本人にとっても管理しやすい状態に整えることができました。
もし認知症の可能性を感じたら
今回のケースはご本人の理解力に問題はなく、あくまで「管理の仕組み」を整えることで解決しました。ただ、もし飲み残しに加えて、物忘れや判断力の低下が疑われる場合は、少し違う対応が必要になります。
その場合は、お住まいの市区町村に必ず設置されている地域包括支援センターに相談してみてください。「まだ介護保険の対象になるかわからないけれど、ちょっと心配」という段階から相談でき、必要に応じて介護認定の(再)確認につなげてもらえます。薬の管理と生活全体の支援は地続きなので、気になる様子があれば、こちらの窓口も選択肢に入れておくと安心です。
声をかけるときに、少しだけ意識したいこと
親世代にとって、「薬をちゃんと管理できているか」「体調が衰えていないか」という話題は、プライドに触れやすいテーマでもあります。
「ちゃんと薬飲んでるの?」と問い詰めるような聞き方より、
- 「私も薬の飲み忘れよくあるから、お薬カレンダー使ってみようかな。お母さんはどう管理してる?」
- 「最近、こういう便利な仕組みがあるらしいよ」
というように、自分ごととして話す・情報として共有するくらいの温度感の方が、身構えられずに済むことが多いように感じます。
おわりに
帰省は、離れて暮らす家族の「今」を確認できる、数少ない機会です。楽しい時間を過ごすことが一番の目的だとは思いますが、その合間に、ほんの少しだけ「薬箱」や「暮らしぶり」に目を向けてみてください。
何も変化がなければ、それは何よりのことです。もし気になる点があれば、深刻に捉えすぎず、「まずは薬局に聞いてみようか」くらいの軽さで、専門家を頼っていただければと思います。
今年のお盆が、家族にとって良い時間になりますように。



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